大判例

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東京高等裁判所 昭和47年(う)3118号 判決

被告人 野村輝夫

〔抄 録〕

原判決が量刑に当り酌量減軽の事由として説示する諸点を検討すると、(1)被害者が夫不在の深夜訪れた被告人を屋内にあげて泊らせた不注意が本件犯行の一誘因となったとする点については、被害者の思慮不十分であったことは首肯し得るが、そのことが、自身を被害者とする強盗殺人の兇悪犯罪を誘ったとして責めることは些か被害者に酷である。降雨中の深夜という状況を考えた好意に出たものというべく、原判決も認定するとおり、被告人は被害者方を訪れるに先立ち、同女から金策を得る見込のないときは同女を殺害してでも金品を強取する意図を懐いていたことが認められるのである。(2)被告人の親族等の努力により被害者の夫に対し三五〇万円が見舞金として支払われたとの点については、そのとおり認められ、被告人の親族等の置かれた、恐らくは身の置き場もない思いの立場には同情を吝むものではないし、三五〇万円を調達して提供した苦衷は十分理解できるが、所詮、理由なく奪われた被害者の生命が回復されるものではなく、妻を失った夫の悲嘆が償われるものでもない。同人の原審公判における証言の趣旨は、被告人の親族等の心情を察して、その申入れを素直に請け容れて示談に応じたが、必ずしも被告人の兇悪な犯行を宥恕することはできない心境を吐露したものと解されるのである。(3)被告人の妻が幼い二児を養育しつつ、被告人の社会復帰を待つ決意を示しているとの点も、その証言により認められ、本件に関して最も苦渋に満ちた立場に置かれたと思われる同女の心情は痛心の至りであるが、被告人の刑責を軽くするものではない。(4)被告人が深く反省悔悟しているとの点については、所論の指摘するとおり、犯行後の被告人の所為をみれば、狡智に丈けた入念周到な措置が採られ、公判審理における応答にも明らかに嘘言と思われる供述が随所に見られ、心底より自己の犯罪に対する反省を遂げ、悔悟の情に徹していると認めるには疑いなきを得ない。これらの考慮のもとに判断すれば、本件の如き兇悪無惨な犯罪について量刑するに当り、原判決の挙げる諸点を総合しても、その法定刑を殊更に減軽すべき事由を備えているとは認め難い。一面刑罰本来の目的が社会秩序の維持にあり、社会に衝動を与えた兇悪犯罪に対し厳重な処刑を求める社会一般の要請も否定できない。記録に現れた一切の情状を慎重に考量判断するとき、原判決の量刑は軽きに失し、原判決は破棄を免れず、所論は理由がある。

(高橋 寺内 千葉)

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